ギフト関連用語の語源考

 
セレクト2003年 10月号より抜粋
株式会社ギルガメシュ代表取締役 石田 天祐
 

ギフトという言葉は英語からの借用語であるが、今やしっかりと日本語に定着したようだ。GIFTは「与える」を意味するGIVEの名詞形であると中学生の頃苦労して覚えた記憶があるが、「贈り物」以外に「天賦の才能」の意味も兼ねている。

馬齢を重ね、浅学非才を自認する昨今は、天才的な人物を見ても羨むことなく、才能とは一部の人に「天から与えられたもの」と素直に諦観できる。「天賦の才能」のギフトには縁が薄いが、長年体勢の人と交流し、世話をしたり、世話をされたりした結果、「贈り物」のギフトの方には縁が深い。

中元と歳暮の時節には親しい間柄で「贈り物」のギフトが行き交う。「歳暮」は字義通り「年末」の贈り物だが、「中元」は道教信仰の三元(上元、中元、下元)の一つで、陰暦の七月十五日のことであった。

正月十五日を「上元」といい、半年間無事に生きてきたことを祝い、仏教の盆行事と結びつけて祖先を供養するとともに世話になった人々に感謝の「贈り物」をする習俗が「中元」となった次第。

漢字の「贈」を分析すると、ギフト行為の本質が判る。財貨を意味する「貝」と音符の「曹」を合体させたのが「贈」。「曹」の原義は「積み重ねる」ことで、「曹つて」は現在と過去をオーバーラップさせ、体験記憶を「積み重ねる」副詞。「増」、「層」、「憎」、「甑」は同源語。構成物が幾段にも、「積み重ねる」と「層」を成す。「憎」とは「立心偏」によって示される悪「感情」が「層」を成して「積み重ねる」心境。「甑」は「こしき」と訓み、「幾層にも積み重ねたふかし器」。「曽祖父」「曹孫」のような世代を「積み重ねる」形容にも「曹」の字は用いられる。

同じ発想に立てば、「贈」が金品をおくって相手の財貨に「積み重ねる」行為と理解できよう。日本語の「贈る」と「送る」は「置く」に接辞「る」を付加させた派生語。ギフト品を「送っ」て、相手の財貨に「積み重ねて置く」行為が「贈る」というわけ。

GIFTの動詞形のGIVEは初めて英語を学んだ時、「与う」と覚えさせられたが、「与う」の語源を辿ると、「当つ」に行き着く。ATU(当つ)が接辞を付加して派生した語がATARU(当たる)とATAHU(与ふ、能ふ)。「与ふ、能ふ」とは相手が要求する価値、能力に「相当する」対応行為。対象に対して「釣り合い」のとれるように「当たる」行為が「与ふ」と「能ふ」。「与ふ」の名詞形「与ひ」が「価」、「値」に転義するのはなぜか。

売買とは物品と金品の「交換」行為で、「買ふ」の原義は同音の「交ふ」、「代ふ」。売買に際して物品の「価値」の釣り合いを計るギブ・アンド・テイクの観念が「与ひ」であり、「価」と意識される。商品の価値は一般的には「古い」ものより「新しい」ものに求められる。

「新し」の語源は「当たる」から派生した「当たらし」で、意味することは「相当な」価値を有するものの形容詞。ギフト業界に従事する人は消費者を歓ばすために「新しい」商品をたえず開発しなければならない宿命を背負っている。